一橋倫政

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集積の経済

前回に引き続き、今回も一橋地理の過去問の中で経済分野に関わりが深い問題を検討していきます。今回は、2008【1】(3)を扱います。テーマは「集積」です。

 

(設問を要約すると)産業集積は企業にとってどのようなメリットがあるか。(150字)

 

集積の経済

集積のメリットはDuranton and Puga [2004]に従って整理すると、共有マッチング学習の3種類に分けられる[1]。 解答例はこれに沿って作成した。共有によるメリットとは規模の経済範囲の経済の利益の共有を表す。マッチングによるメリットとは、企業・労働者が多数集積することで、最も利益を得られる相手と出会うことを表す。学習によるメリットとは、起業家や労働者が既存企業、熟練労働者などから学ぶ機会が多いことで、能力の向上が期待できることを表す。規模の経済、範囲の経済はともに重要な用語なので、書けるようにしておくのが良い。規模の経済とは、生産量の増加によって1単位あたりの生産にかかる費用が逓減していくことを指す。範囲の経済とは、複数の財・サービスを複数の企業で供給するよりも、単一企業で生産するほうが費用を抑えられることを指す。

 

都市経済学における集積の経済

 一般に、都市経済学における集積の経済は大きく分けて(1)地域特化の経済 (2)都市化の経済 に分けられる。地域特化の経済とは、同一産業に属する企業が多数集積することによる〈利益〉である[2]。 地域特化の経済は、上記で述べた集積のメリットと同じである。以下では、都市化の経済について検討していく。ある地域に異なる産業の企業が多数集中し、異なるバックグラウンドをもつ人々が集中することによって、都市化の経済が働く。  例えば、銀行は、様々な産業の企業が存在するような地域に立地する。銀行は1年を通じて信用創造によって利益を生み出すが、単一の産業の企業のみが立地する地域だと、どの企業も同一時期に資金を必要とするため、このような地域は銀行にっては好ましいものではない。多数の人が集中することによる利益は、文化へのアクセスが容易であることが挙げられる。美術館や音楽ホールは、経営を維持するためには、一定以上の入場者がいなければならないため、比較的人口の多い場所立地する。このような都市化の経済によって、都市にさらなる人や産業が集積し、都市は自己発展的に成長していく[3]。

 

[1] 柳川隆 町野和夫 吉野一郎 (2015) 『ミクロ経済学・入門』 340,341頁

[2],[3] 佐々木公明 文世一 (2000) 『都市経済学の基礎』 13,16,18,19頁


参考文献

Duranton, G. and D. Puga (2004) "Micro-Foundations of Urban Agglomeration Economies"

 

〈解答例〉

3企業が集積することで、生産活動に必要なインフラ等のために存在する規模の経済や、多様な中間財の投入の必要性から存在する範囲の経済から生じる便益を共有できる。また、多くの企業や労働者が集積することで互いに最も利益を得られる相手と出会う可能性が高くなる。さらに、起業家や労働者がそれぞれ既存企業や熟練労働者の経験から学ぶ機会が増え、能力の向上に繋がる。(150字)