一橋倫政

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クリスタラーの中心地理論

 先日、都市経済学のテキストを読んでいたところ、「クリスタラー中心地理論」なるものが出てきた。どこかで見たことがあると考えを巡らせていると、2005一橋地理第3題に同様のテーマで出題されていたことに気づいた。そんなものを出題するな 一橋大学で出題される地理は、経済学の知識を絡めた問題が出題されることがあり、高得点を狙うならその対策は必要となる。また、この分野の対策をすることで経済分野の対策も兼ねることができ、倫政/地理選択の人は本番問題を見てから解きやすい方を解くという選択肢も生まれてくるため、余裕のある人はやっておいた方が良いと思われる。今回はその問題の一部を検討していきたい。(なお、地理の問題は許可を取っておらずリード文含む全文は掲載できないため、各自でT予備校のHPなど参照してください)

 

 (設問を要約すると)電子商取引の登場により今まで取引されることはなかった特殊な商品が取引されるようになった。この理由を「財の到達範囲」の概念を用いて説明せよ。また、人々の消費する商品のバラエティはどのように変化したか。(100字)という問である。

 

中心地理論

 まず、クリスタラー中心地理論を簡単に説明してみる。例えば、農業を中心とする経済システムで営まれていた時代を例に考える。自分の住まいから市場へ向かうには当然交通費がかかる。さらに、財の価格が上乗せされる。これを総費用と呼ぶことにすると、市場におもむいて財を購入する条件は、総費用が自家生産にかかる費用を下回る場合に限られる。このとき、市場から限界ギリギリのラインまでを最大到達距離と呼ぶ。市場に近い場合は総費用の方が小さくなり、市場に行って財を購入することになるが、市場から離れている場合、自家生産した方が安上がりになる。この(総費用)≦(自家生産の費用)となるような範囲を商圏と呼ぶ。複数の商圏が隣り合わせとなっている場合、2つの商圏が重なっている場所では競争が熾烈になり、財の価格は低いものとなる。正の利潤がある限り企業の参入は続くが、ゼロとなったとき参入は止まり均衡となる。また、人口密度が高い場所では企業間の間隔は小さくなる。これは、商圏が小さくても固定費用を十分にカバーできるほど売り上げが出るためである。つまり人口密度が高い場所では企業が多く立地し、大きな都市ができる。逆に低い場所では、あまり企業は立地せず、都市は小規模のものとなる。このように、中心地システムは階層構造を持つとされる。中心地理論では、大規模の都市の周辺には多くの小規模の都市が偏在することになる(設問の図を参照)。さらに、大規模の都市ではそれより小規模の都市にある業種の財は全て手に入れることができる。(モデルでは複数の財を考えるがここでは省略する)

 

財の到達範囲と電子商取引

 ここで、設問に戻って考えてみる。リード文では財の到達範囲の上限と下限の説明がされているため、解答例もそれに合わせて考える。上記で言う商圏が、財の到達範囲の上限にあたる。電子商取引では交通費がかからず、上記でいうなら総費用は財の価格しかかからない。交通費がかからないならば、財の到達範囲の上限は拡大する。cyberspaceに「立地する」商店に、Internetを通じてアクセスでき、また、注文した商品を望む場所に配達させることが可能であるならば、財の到達範囲の上限という制約を考慮する必要が低くなるのである[1]。 また、同時に財の到達範囲の下限も大きくなる。これは定義を見れば明らかである。財の到達範囲の下限の定義は、中心地においてある財を供給するために必要なその財の最小限度の需要量を含む空間的範囲であり、供給者がある財の販売を維持するのに必要な需要人口 を満たす、中心地からの最小距離 [2] である。つまり、下限は最低限度の需要を含まなければならないということである。設問でいう特殊な商品というのはそれまで需要の少なかった商品であると考えられる。その商品の取引で最低限度の需要を満たすためには、下限の範囲はこれまでよりも広くなくてはならない。その結果、財の到達範囲の下限も拡大する。こうして、財の到達範囲の下限が、財の到達範囲の上限と比較して大きくなって、これまでは供給されなかったような財が供給されるようになる[3]。 また、クリスタラー中心地理論では上記の通り階層構造があり、小規模の都市では手に入らず、大規模の都市でしか手に入らない商品が存在する。一方で、電子商取引の場合このような階層構造は存在しないため、あらゆる商品が取引される。このような理由から、人々の消費する商品のバラエティは豊富になる。

 

[1],[3] 2007 高橋康人 “失われた空間を求めて-  「空間」の視点が捉えるB2Cのダイナミクス -”

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasi/22/0/22_0_266/_pdf/-char/ja

[2] 2017 坪井明彦 “地方都市商店街の活性化に関する考察” 『地域政策研究』19巻3号 86頁
http://www1.tcue.ac.jp/home1/c-gakkai/kikanshi/ronbun19-3/11tsuboi.pdf

 

〈解答例〉

3(2)取引費用の低下で財の到達範囲の上限は拡大し、従来需要の少なかった商品も遠方に需要を求めうるため、同様に下限も拡大し、特殊な商品が取引されるようになり、人々の消費する商品のバラエティは豊富になった。(100字)