一橋倫政

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出題の意図を読み解く

一橋大学平成31年度入試、および令和2年度入試の出題の意図を公開しています。(https://www.hit-u.ac.jp/admission/application/ito.html)

出題の意図から対策を考えていきましょう。

 

 

まず、平成31年度入試から見ていきます。(以下は政治分野から抜粋)

問2は、日本国憲法のもとで違憲審査制度が設けられたにもかかわらず、十分に機能してこなかった「背景事情」について、説明を求めている。このことは、新聞記事などでも論じられていることである。本問は、教科書にとどまらない幅の広い知識と思考力を計ろうとする趣旨である。

 

さらっととんでもないことを言っています。つまり、一橋大学は教科書の範囲外から出題することを宣言しているのです。最初に投稿した記事でも述べたことですが、受験政経と大学の学問には乖離があります。なぜこのような問題を出すのかと言えば、出題者が問題を作る際、わざわざ受験政経の範囲に合わせるよりも自分の専門分野、および興味のある分野から出題したほうが楽で、なおかつ批判もされないためと考えられます。具体的な例を検討していきます。

 

今年の問題を見ていきましょう。これは経済分野の1番です。(今年の経済分野が2つに分かれている理由は出題者が異なるためと推察されます)

 

設問

表は、米と日本における上位1%の富裕層の所得が総所得に対して占める 割合(以下、上位1%シェア)を示している。両国ともに戦前は上位1%シェア が16%から19%と高い水準を維持してきたが、戦後になるとこのシェアは一 低下した。しかし、2010年になると日本の上位1% シェアが10%なのに対 して、米国では20%まで上昇している。近年になって日米で上位1% シェアに 相違が生じている理由について説明しなさい。(150字以内)

(表は特に関係ないので省略)

 

出題の意図

設問Ⅲは長期的な社会の構造変化の原因やその政策的意味を問う問題となっている。問1では、『21世紀の資本論』(トマ・ピケティ)で取り上げられた富裕層の所得シェアを日米で比較し,どのような社会構造の変化が近年の日米の傾向に違いをもたらしたのかを考察させている。米国では課税前所得の不平等化が進んだのに対して,日本では比較的平等主義的な賃金体系を守っている点など、一般にも広まっている経済社会常識をデータの解釈に柔軟に応用し、簡潔に説明できるかが問われている。

 

元ネタがピケティであることに気づいた受験生はおそらくいないでしょう。アメリカではピケティの主張する富裕層の富裕化が進んでいるのに対し、日本では逆に貧困層の拡大が進んでいること、の指摘がこの設問の意図です。もちろんこのような話は、政経のテキストには書いてないです。よく経済分野はグラフを読み取る問題が多いと言われますが、この問題のようにタダの飾りであることの方が多いように思えます。(この表を眺めていても富裕層の富裕化はわかりません。)つまり、ただ単純に知っているか知っていないか、ということになります。では、どのように対処すればいいのでしょうか。これは最早出題者を探るしかないと思います。例えば、この問題の出題者は一橋大学経済研究所の森口千晶氏であると推測されます。

 

近年の上位 1% および 0.1%所得シェアの動向を見ると、1990 年代半ばから 2008 年のリーマンショックまで緩やかに上昇した後に減少に転じている。また、富裕層の富裕化が進むアメリカでは、上位所得層であるほど所得の上昇率が大きいが、日本ではそのような傾向は見られない(Moriguchi and Saez 2008)。アメリカにおける上位所得シェアの上昇の大きな要因は、①重役報酬の高額化による上位労働所得の拡大と②富の集中による上位資本所得の拡大である。  (中略)

以上を総合すると、日本でも上位所得シェアの緩やかな上昇は見られたが、ピケティの憂慮するような「富裕層の富裕化」が進んでいるとは言い難い。次節では、日本の直面する課題は「貧富」の拡大ではなく、貧困の拡大であることを明らかにする。

(2017 森口千晶“日本は「格差社会」になったのかーー比較経済史に見る日本の所得格差ーー” 『経済研究』68巻2号 177,178頁 より引用)

(リンク先→http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/handle/10086/28528

 

具体的な対策法

完璧に対策したいなら経済研究所も含めたすべての一橋の教員の論文を漁るしかないです。しかしそのような時間はないと思うので(特に現役生は)、正直なところを言うと倫政に時間を使うよりは他の科目に時間を費やしたほうがいいのではないかと考えます。下に自分が実際使用したテキストを載せておきます。参考までに。

 

経済分野

ミクロ経済学の第一歩』(有斐閣ストゥディア)

マクロ経済学の第一歩』(有斐閣ストゥディア)

ミクロ経済学・入門 ビジネスと政策を読みとく』(有斐閣アルマ)

マクロ経済学・入門』(有斐閣アルマ)

『財政学ベーシック』(中央経済社

政治分野

憲法 第三版』(弘文社)

『国際政治史』(有斐閣ストゥディア)

国際政治学をつかむ』(有斐閣

倫理分野

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